減築により光と風を取り戻す暮らし
広陵町 S邸 2012年7月完成
こんな家にしたい
●夏は気持ちよいが、冬場の寒さを解消したい(冬は室内と外気がほぼ同じ)
●母屋と離れをつなぐ倉庫・通路部の床の傷みに対処
●南面和室を明るく、隙間風のない空間へ
●ヒートショックの心配がある浴室を暖かくしたい
●地震に強い建物にしたい
現状の住まいの様子と設計コンセプト
母屋は築80年の古民家で、建物は一般に見受けられる傾きがあるが
造りはシッカリしている。
現在まで幾度となく増築や改築を行っており、一番近年に行われたキッチン・茶の間部分は現在の生活の中心となっている。建物の構成は、
母屋棟と離れ棟が中庭を挟んで南北に建っており、
この2棟を”コの字”型に繋ぐように倉庫・通路棟が繋いでいる。
しかし、以前浴室水廻りのブロックを母屋の中央部から中庭に突き出た
形で増築を行ったことから、広く明るい中庭を二つに分断したような
形になってしまっている。
この浴室棟が、南側の和室への明りを遮り、暗くしている原因となった。
母屋は古いこともあり、各所に隙間が多く、特に冬場は外気温とほとんど
温度差のない状況にあるようだ。
また、沈下などにより差鴨居の下がっている部分が見受けられる。
大屋根は、キッチン周りの改装時に葺き替えを行っている。しかし
その際に柱・床の建ちを直す工事を行っていないのが残念。
計画は、まず中庭に張り出している浴室・洗面・便所ブロックを撤去
することで、母屋の採光と通風を確保すること。
また、明るくなった母屋の南面に広い縁側を取り、以前の中庭へ変えたい。
撤去した浴室周りのブロックは、2棟を繋いでいる倉庫・通路棟の中に
すっきりと組み込んでしまうように考えたい。
ただし、この棟も基礎部分は土台も含めてかなり傷んでいると予想して
いるので、新たに壁の外へ軸組みを組みなおし、この部分に耐震性と
強度を持たせることにする。
母屋の寒さに対する対処として、気密性と断熱性を確保できるように
建物全体に改装を行う。
建物の耐震性については、耐震診断と耐震補強を行い、柱や壁の追加や
筋違い等で耐震性を向上させる。
建物の垂直の建ちについては直近の改装時に屋根を葺き替えている様で
その際、屋根と同時に壁を落とし柱・床の立ち調整を行うべきであった
が、これを行わず納めてしまったようだ。
これを今回行うには壁・屋根のやり替えまで予算が増えすぎるので諦め、
次回に申し送りする。
こちらのブログで浅野が現場の様子を書いていますので、ご参考下さい。
さて、今回ご紹介する方法を悩んでおりました。
以前の様子(Befor)とリノベーション後(after)を並べるには、施工会社が
行ってくれた仕事を評価できないのではないかと思い、建物の場所毎に
工事の様子を紹介する方が分かり易いのではないかと思う。
今回は場所毎に進行を紹介する方法で進めてみたい。
完成写真が先に見たい方は、このページ最後の方へ
カソールを送ってください。
今回の紹介ページはとんでもなく長いですので。
今回の建物は、いわゆる四間取りの古民家で、通り土間に和室が4間、
土間の反対側にダイニングキッチン(最近改装済み)がある一般的な
古民家です。
違うところというか、一番の問題は、南向き通り土間の和室に接して
中庭に水廻り棟を増築したところにあります。
南和室から見た中庭。
左手の建物が水廻り棟。 閉ざされているのでここに降った雨が
排水されずに建物の下に溜まってしまっている。
中庭の反対面の様子。
右手に見える階段付きの建物が水廻り棟。
左手の建物は近年建築した離れ棟。
この水回り棟建物が無くなれば、以前の広い中庭が手に入る。
この建物の屋上は洗濯物干し場になっている。
母屋との取り合い部分はかなりいい加減で雨漏りは回避できない。
ここが南向きの中和室。
正面廊下先が水廻り棟。
本来はこの正面に中庭に面する縁側があるはず。
昼間であるにも拘らず、照明が必要だ。
今回、水廻り棟ごと撤去する。
和室。
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柱は様々な場所で少しずつ沈下している。
特に4間の真ん中、田の字の中央柱の沈下が激しく差し鴨居が
下がり建具か開閉出来なくなっている。
今回はこれも上げて水平に戻す。
同時に床も不陸を治す。
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左半分の床下をめくったところ。
ちなみに右半分は、床下をすべて撤去の後、新たに床組みをしたもの。
明らかに材料が違う。
中心の柱はジャッキにより上げて水平に戻します。
その際に足元の束石から外れないように、束石部を大きく補強します。
なをこのコンクリートペースと柱は緊結されていない。
柱脚の繋ぎを残し、補強したうえで新しい床組を組み直します。
以前の床下地はこれ。
ヘロヘロの丸太大引きにヨレヨレの根太。
よく見ると束も丸太、、、と言うか枝?
玄関上がり口の敷居下に入っている束を見てみると、
分かり易く言うと、建具の入っている下に見える細い棒のこと。
たしか私、しっかり造っている古民家って言いましたよね・・・
この束・・・いや、棒。 こんなのあり?
はい、全部撤去の上、やり直し。
根太(60×60@450ヒノキ)、大引き(105×105@950ヒノキ)の上に
杉板の下地板を敷き込みます。
その前に、根太の間にはしっかりとした断熱材を敷き込む必要が
あります。
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下から見てみますと、
下地が束石を含めて全て一新されているのが分かります
でしょうか。
野地板が完了すれば、畳を敷き込めば和室は終わりです。
そうそう、忘れていました。
母屋本体の耐震補強です。
今回は耐震診断、そして耐震補強を行い、計算結果に伴い
国元商会のコボットを使用して耐震補強としています。
さて、次は中庭の撤去部分へ移ります。
基礎を残して撤去すると、以前の中庭が見えてきました。
防塵ネットの向こうが、母屋(右手)と離れ(左手)を繋ぐ
通路兼倉庫になっているところです。
今回はここをきっちりと改修して、撤去した水廻りを
ここに集約する予定です。
綺麗に撤去した後、通路部分の改修に掛かります。
まず、改修前(befor)の様子から。
ものの見事に物置状態です。
以前は大雨が降ると、中庭に溜まった水がこの部分の床下に
貯まってしまい、床がフワフワ状態に。
また、床の高さが一段下がっており、下りたり登ったりの連続。
奥に見えるのが通路棟部分。
綺麗に庭が出てきました。
通路部分も、床下から撤去を行います。
この建物の補強方法ですが、外部周りの基礎がしっかり
しているとは言い切れず、上部をしっかり造っても強度を
確保できることが確認できない以上、建物外周部の内側に
もう一つ基礎から新たに土台をつくり、新しい土台と
以前の土台を緊結する方法を取る。
立ち上がりの基礎をつくり、土台を伏せて以前のものと
緊結。 その上で新しい床下地をつくります。
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この通路棟部分は在来工法ですので、普通に筋交いを
入れて補強します。
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床の断熱材もしっかり敷き込みます。
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大切なのは、外壁部分や間仕切り部分の柱幅の隙間が大切
です。 ここに隙間があると、床下から冷気が壁を伝って
吹き出してきます。
話を本筋に戻します。
中庭に母屋の縁側を新たに造ります。
以前は幅も狭く、一段下がったものでした。
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新しい縁側は、段差はすべてなくします。
また以前と違い、かなり広い縁側をつくります。
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コンクリートを打設後、基礎が出来上がりました。
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出来上がった基礎に土台を敷き、建て方を行いました。
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軸組はすべて現場で大工が手加工しています。
写真は追っ掛け大栓継ぎですね。
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軒裏は杉の化粧板張り、垂木も化粧になっています。
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以前、接していた水廻り棟を撤去した後は、屋根が破損
しています。
そこで、瓦部分を減らし、下の部分をガルバ鋼板を横葺に
葺きました。とってもきれいに仕上がっています。
縁側の内部に進みます。
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天井や壁の下地に掛かり始めました。
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天井も貼られています。
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大型の掃き出しの建具枠も取り付けられています。
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大型建具の引き込み用の戸袋も出来ています。
シートで隠れていますが、デッキも既にできています。
シートが外れました。
さて、
今度は通り土間へ入ってゆきます。
荷物が多いですが、一見美しく見えますね。
実は、床板がかなり傷んでいます。
框と一緒に床板も補修する必要があります。
とりあえず、傷んでいる部分や下地はやり替えます。
一旦撤去になります。
まず、框は表面を削り、傷んでいる部分を補修します。
床板は松の板で、厚さや素材の合うものを探してくれました。
そして、すべてやり替えます。
床下の点検扉も新たに新設しました。(裏面に断熱材張り)
床板の隙間も埋めて、下には断熱材も敷き込みます。
出来上がりはこんな感じです。
この、通り土間。
今まで気がつかなかったのですが、中庭の水廻り棟を撤去すると、
真正面に離れの玄関が来ることも分かりました。
玄関に廻ります。
玄関ドアも交換します。
今度は複層ガラスで、鍵もキチン掛けられるものへと変更です。
最後は北側になります。
北面の縁側ですね。
ここも床は隙間が空いて、隙間から床下の地面が見えます。
サッシが入っていますが、断熱性能は全く期待できず。
欄間はガラスが入っていますが隙間だらけ。
天井は屋根の野地がそのまま。
これをすべて解消します。
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改修方法は、
床は下地を作って断熱、新しい床板を張ります。
サッシは断熱サッシへ交換、複層ガラスへ。
欄間は、隙間を木枠で埋めて、外部から複層ガラスで埋める。
天井は、断熱材と共に天井を新たに設けます。
これで北側の断熱はほぼ解消できるでしょう。
次は外部へ出て行きます。
外壁が一部剥落しています。
サッシと同時に壁の改修も必要になります。
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西側の外壁
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全面にトタンが張られています。
年月も経っていることや隣の屋根の影響もあり、表面に
錆が浮いています。
断熱性能を上げることを考えて、断熱材付きの金属サイディング
に張り替えることをします。
トタン撤去
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新しいサイディングが1階部分に貼られています。
これらが済めば、今回の改修工事は完了します。
~ ここから完成した建物の写真を公開します。~
玄関から。
では、
玄関ドアを開けます。
玄関の中です。
床のタイルを平瓦に張り替えています。
通り土間の突当りは中庭へ出ることができ、以前は全く見る事の
出来なかった離れの玄関が真正面に見えています。
玄関ドアは、以前と同様に両引き戸としています。
また、網戸にすることもできます。
では、
通り土間を通り抜けてみましょう。
以前とは違い、明るくて気持ちの良い風が通り抜けます。
縁台の松板は現場監督さんが探してくれました。
これから時間と共に色合いが濃くなってゆくでしょう。
奥にある扉は、綺麗でしたので以前使っていたものを使いました。
格子越しに明かりが入るのでいい感じですね。
扉の手前には、和室南側にある縁側へ上がれるよう、ステップを
儲けました。
敷段の先には、以前とは全く違う広く明るい縁側が伸びています。
この敷段のイメージは、住まい手さんから頂きました。
近鉄当麻寺の駅前にある和菓子屋さんの中にある雰囲気がお好きだと
聞き、食べに伺ってヒントを頂きました。
この扉を開けると、広くなった中庭に出ることが出来ます。
さて、
次は、4間取りの和室へと行きましょう。
まず、玄関から和室へと上がります。
北側の二間です。
ここは、床下のやり替え、差し鴨居・柱の調整、壁の塗り替えが
ありました。
畳はすべて新調しています。
南へ向いてみます。
以前は、水廻り棟があって昼間も暗く照明を付けていた場所です。
この障子紙は、吉野の手すき和紙で作ったもの。
大変味わいがありますね。
障子は隣の部屋も含めて全開可能です。
一緒に縁側にある建具も収納していますので、中庭まで何もありません。
縁側との関係が分かる写真です。
広い縁側の外にも床があるのが分かりますでしょうか。
住まい手さんは、風呂上りにここで涼むのが最高だそう。
左が南向きの部屋、右手が北側の和室になります。
以前か4間にある解放感は何も損なっていませんね。
でも、しっかり耐震性はアップしています。
南向きの部屋を。
ここは、以前物置スペースで、洋服や段ボールが積み上げていました。
今はなんてスッキリした部屋になったことでしょう。
舞良戸も箪笥も部屋のアクセントとして輝いていますね。
縁側へ出てみます。
縁側の奥から見ています。
左は和室、右は濡れ縁になります。
これは2間と障子を閉めています。
床はヒノキ、天井は杉、壁は漆喰を塗りました。
この後ろですが、ここから離れに向けて以前倉庫が
ありました。
床が下って雨が降ると床下に雨が溜まる部屋でした。
新しい廊下をつくり、ここに浴室・洗面・便所と、以前は
中庭に飛び出していた部分をここに整理して納めました。
お手洗いです。
中は十分な広さがあり、もし車いすで行動するようになった
としても十分な広さがあります。
このお手洗い、住まい手さんにすごく気に入って頂いている
様です。
洗面所
脱衣場兼用で洗濯機置き場も横にあります。
また、浴室はユニットバスを設置しました。
断熱性もアップしていますので、冬でも浴室が寒くない
のは、体に大変良い事ですね。
廊下の奥の扉
この扉は南側に建てられている離れとをつなぐ扉です。
以前はドアになっていましたが、今回は引き戸。
と言いますか、今回のリフォーム部分で、ドアはありません。
全て引き戸になっています。
さて、お待ちかねの中庭です。
通り土間を通り抜けると、中庭へでます。
床の平瓦は、今までぐるっと迂回してたどり着いた、離れの
玄関に真っ直ぐ繋がっています。
中庭の中央へ行きますと、
ここから奥の和室へ一本道ですね。
良い風も通り抜けますよ。
中庭に隣接していた従前の洗濯物干し場も、傷んだ屋根を取っ払い、
外部との間に板塀を新設しました。
勝手口も付けましたので、一応外からも進入可能です。
家の中を通り抜けて、北側の縁側へ向かいましょう。
南の縁側と同じく、床はヒノキ、壁は漆喰、天井は杉板
を使用しています。
外部面は大型の掃き出しサッシを取り付けました。
上部の欄間も外部側に隙間を埋めた複層ガラスがはめ込まれて
います。
外部側です。
外壁のクラックが入っていたところは修繕の上、焼杉板張り
となりました。
西側の外壁が全て貼り終えてこの工事は終了です。
工務店さん、監督さん、ご苦労様でした。
工事に掛かり始めたのが、2012年2月。
工事が完了したのは、8月という6か月にわたる大工事でした。
長い紹介、お付き合い頂き有難うございました。
2017年6月
浅野勝義/奈の町